交通事故の加害者が未成年であった場合、未成年に責任能力があるのか、という問題が出てきます。
民法では、未成年者が不法行為を起こした場合の責任について712条で規定しています。
【民法712条】
未成年者が他人に損害を加えた場合、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
つまり、
交通事故を起こした本人が自分の行為の責任を認識することができないのであれば、不法行為責任=交通事故の責任は負わないことになります。
これを責任無能力といいますが、全ての未成年者が責任無能力者に当たるのでしょうか。
また、加害者が未成年だった場合、損害賠償請求はどうなるのでしょうか?
1. 未成年者の責任能力について〜12歳から13歳以上なら責任弁識能力がある
すべての未成年者が責任無能力者に当たるわけではありません。
未成年といっても、その範囲は広いです。
未就学児もいれば小学生もいて、中学生から高校生、18歳や19歳までと。
未成年をひとくくりにはできません。
一般的には,12歳から13歳以上であれば責任を弁識する能力があるとされています。
したがって、12歳以上の未成年者であれば、不法行為責任を負うことになるのです。
被害者は加害者が未成年であっても、本人に対して損害賠償請求ができることになります。
ただ、問題は賠償能力です。
15歳くらいの子に損害賠償請求をしても支払える能力はないでしょう。
加害者だけでなくその親や家族に対しても損害賠償は可能なのか?
2. 資力のない未成年の場合には親に損害賠償請求できるのか?
加害者が未成年者だと資力の問題が出てきます。
免許を取得している未成年で、任意保険に加入していれば問題ないでしょう。
また、完全に自立した未成年者であれば、加害者本人に対して請求してもそれなりの賠償を受けることも可能かもしれません。
しかし、任意保険に加入していない学生や無職、アルバイトなどの低収入の未成年が加害者となる場合は別です。
損害賠償を支払うほどの資力がないのが通常です。
人身事故を起こせばその賠償額は1000万を超えるケースも多くあります。
仮に加害者(未成年者)本人に対して損害賠償請求をしても、賠償額の回収は難しいでしょう。
そこで、本人に資力がないのであれば、その親に対して損害賠償請求ができないのか?
これに関しては、まず民法709条を見ておきましょう。
【709条】
不法行為による損害賠償について規定しており、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」というものです。
この709条の条文がどうかかわってくるかというと・・・。
加害者本人だけでなく、その親(監督者)にも独自の不法行為責任を認めた判例があります。
未成年者に責任能力があった場合。
親は監督義務者としての義務違反があります。
未成年者が起こした不法行為及びそれによって生じた結果について、相当因果関係があったと認められるとき。
親(監督義務者)も民法709条の不法行為をしたと解される。
親も自分の子が起こした事故(不法行為)の責任を負い、損害の賠償責任を負うことになるのです。
ただ、親である監督義務者が免責されるケースもあります。
親である監督義務者が免責された判例
子を監督するにあたりきちんと義務を果たしていた場合で、未成年者の身勝手で起こした交通事故。
相当因果関係がないとされれば、親は損害賠償責任を負わないとされます。
なお、実際のところ親が賠償責任を免れるケースはかなり少ないです。
仮に親が709条では賠償責任を追わない場合でも、人身事故に適用される自賠責法の運行供用者責任(法3条)から親に対しての損害賠償を追求することもできます。
2-1 運行供用者責任とは?
例えば、親名義になっている車が自宅にあったとします。
その車を子が運転して起こした事故の場合、一般的に運行供用者責任が認められます。
では、子である加害者本人の名義になっていたとしたらどうでしょうか?
加害者本人(未成年者)名義の車の運行供用者責任が、認められる可能性があります。
- 購入費用
- 管理
- 維持費用
このような費用を親が負担していた場合には、運行供用者責任とみなされる可能性があるのです。