裁判で必要になる取引履歴
貸金業者に対して過払金の返還を請求しようとする場合、まず、過払いがあった事実と、その過払いの金額を明らかにする必要があります。
そのためには、貸金業者と借り手の間の金銭の貸し借りの取引履歴が必要です。
この取引履歴は、借り手の記憶にもとづいて作成しても良いのですが、できれば、裁判の際に被告となる貸金業者の保有する取引履歴を入手した方がいいです。
借り手が作成した履歴だと、被告である貸金業者から異議を申し立てられる可能性があります。
被告が提出した取引履歴だと、被告が虚偽の記載をしていない限り、借り手の記憶に基づく履歴よりも信憑性が高く、しかも、被告が提出していますので、被告から異議を申し立てられることがありません。
被告が保有している取引履歴は、是非入手しておくべきです。
被告が履歴の開示を拒んだ場合の対処方法
被告の貸金業者が、すんなりと取引履歴の開示に応じるとは限りません。
将来、自分を訴えてくる相手方に対して、貸金業者が、その相手方に有利な資料を提出することを拒んでくるのは、当然と言えば当然です。
貸金業者が取引履歴の開示を拒んだ場合の対処方法を、以下に記載します。
電話又はFAXによる開示要求
まず、直接、貸金業者に対して、電話又はFAXで、履歴の開示を要求します。
最初の開示要求で、相手側が要求に応じればよいのですが・・・
そうでない場合には、もう2,3回、同じ方法で要求します。
3回程度要求して、それでも業者が応じない場合には、それ以上の要求はいたしません。
その場合には、業者が会社全体として、そのような要求に対しては応じないことを決めている可能性がありますから、担当レベルにいくら要求しても仕方ありません。
次の行政指導を求める方法へ移ります。
ですが、その指導を求める前段階として、繰り返し、直接要求することに意味はあります。
行政指導を求める
金融業者が、電話やFAXによる取引履歴の開示要求に応じない場合には、監督官庁(都道府県知事や財務局長)に対して、取引履歴の開示を拒む貸金業者に対して、その開示をするように指導することを求めます。
この行政指導を求めることができる根拠として、貸金業法第12条の6、「資金需要者等に対して、虚偽のことを告げ、又は貸付けの契約の内容のうち重要な事項を告げない行為」は禁止されていることがあげられます。
なお、この行政指導を求める申告をする際に、その申告を求める理由を疎明しなくてはなりません。
この疎明には、貸金業者が取引履歴を開示していない事実を証明すればよいのですが・・・そんなこと証明してくれるはずありせん。
なので申告の前に、繰り返し貸金業者に対して、開示要求を行ってきたことを報告。
報告により行政指導がなされる可能性が高まります。
実際に行政指導がなされた場合、貸金業者がその指導に従って、すみやかに、取引履歴を開示すれば、問題はここまでで解決します。
この指導があったにもかかわらず、開示に応じない場合には、過払い金返還請求訴訟を提訴して、その裁判の中で取引履歴の開示を求めていくことになります。
その場合でも、行政指導を求めておくと、行政指導があったにもかかわらず相手方が開示に応じないとして、取引履歴の不開示に伴う慰謝料を請求する際に、過払金の請求者の側に有利に働きます。
ですから、事前に行政指導を求めておくことは、訴訟のための準備行為ともいえましょう。
裁判での開示要求
さて、監督官庁の行政指導にもかかわらず、貸金業者が取引履歴の開示要求に応じない場合、過払金請求者の側で作製した取引履歴に基づいて請求金額を算定し、過払金返還請求訴訟を提起します。
その中で、貸金業者に、取引履歴の開示を求めます。
H17.7.19の最高裁判決により、過払金請求の場合でも、貸金業者は取引履歴を開示する義務があるとされています。
裁判となれば、裁判所から、貸金業者に対して、文書提出命令を出してもらい、この命令により、強制的に、取引履歴を開示させることができます。
ただし、裁判の後に、取引履歴が開示されると、過払金額の再計算が必要になりますので、できれば、事前に、貸金業者が作成した取引履歴は、入手しておきたいものです。